自費出版が普及し、個人でも気軽に本を出せる時代になりました。自分史を綴ってみたり、趣味の書き物や絵画、写真を1冊の本にまとめてみたり、我が子のために絵本を作って出版してみたりといったように、目的も多様化しています。一昔前と比べると自費出版における印刷技術は格段に発達しており、それにも関わらず印刷のための費用は安く抑えられています。昔は一度に何百冊、時には千冊単位で出版しなければ印刷費用が割高になり、たくさん刷ったものの家に置き場所がなくて困るといった事態も起こっていましたが、最近では手頃な値段で小口の出版も受け付けてもらえるようになっています。このような変化が起こった背景を考えると、非常に興味深いです。低価格での高品質な印刷は、激しい市場競争によって実現しました。そのような市場競争を起こすほどの需要は、若い人たちを中心とした同人誌と言われるジャンルにおいて発生しています。
同人誌は個人または複数人による漫画や小説などの創作の他、二次創作と言われる既にある創作物を題材とした一種のパロディ出版物を指して言います。夏と冬の年2回に東京で行われる大規模な同人誌即売会は有名です。それが行われる日はその会場になる駅の近くのATMは空になり、近所のコンビニの売上はその数日だけで他の期間の数ヶ月に匹敵する売り上げの数字を叩き出すとさえ言われています。一時、千葉にある広い会場で行われていましたが、市の規制によって千葉から撤退した結果、近隣の商業施設や宿泊施設には閑古鳥が鳴き、税収自体も落ち込んだという話も聞くほどです。その年2回の他にも、日本全国でさまざまな同人誌即売会が毎週のように行われています。当然、そこでは多くの同人誌が売られています。自分でコピーした本もありますが、印刷所を利用して自費出版したものが主流です。同人誌を多く出版する人たちは、印刷技術についてもそれなりの知識を持つようになっています。出版社顔負けの知識を持ち、即売会までの限られた短い時間で少しでも安く綺麗に仕上げてくれる印刷所を探しています。また見栄えよく売れる本を作るために、フルカラー表紙や多色刷りの表紙は当たり前で、本文においてもフルカラーページや多色刷りページ、遊び紙を挿入したり、更に表紙に箔押しやコーティングを依頼するなど、印刷所に対する要求レベルも高く、それに応じているうちに印刷所の印刷レベルも上がり、更に利用が増えることによってコストも下がるという相乗効果を生むようになりました。
同人誌出版者を大口の顧客に持つ印刷所は、それなりの技術を持つと考えても過言ではありません。同人誌の印刷で忙しい時期を避ければ、低価格で納得の行く仕上がりが期待できます。そんな背景を念頭において、自費出版を上手に利用したいものです。